市の都心部を100円玉一つで動ける「西鉄100円バス」は、昨年スター トし、都心における市民の足として定着した。この新しい取組の成功は、低 料金による公共交通の復権という計画的・経済的な側面からまずは評価され るべきであろう。しかし、それに増して私たちは、100円バスに乗り込ん で車窓に目をやり、博多の、川端の、天神のまちの生き生きとした現実感に、 何よりも心を奪われる。それは、路面電車廃止以来20年を経て、一旦は失 われた「人の目の高さで眺める都市」というパースペクティブ(はっきりし た見え方)を、福岡のまちに与えることに成功したからにほかならない。大 きな空間を機能的につなぐ地下鉄や都市高速とは異なる、生活者の目線とス ピード。車窓に囲まれた「動く視点場」の周りで流れていくのは、福岡とい う躍動する都市の、今、その時のページェントなのである。バスの車体のデ ザインには若干の物足りなさを感じるが、バスの車窓から福岡の未来を考え る、そんな人々が利用者の中から現れてくることを祈るとともに、福岡の街 に彩りを与える存在となることを期待する。