美しい文章と同じように、都市景観にも「空間の流れ」がある。この都市空間の文化的な脈絡をコンテクストと呼び、建築物が美しく存在感を高め合い、未来への時間の流れを予感させることが都市景観賞に値する最も重要な要素である。この点において紙与渡辺ビルは都市空間に落ち着いた佇まいを創り、夜間においても人の流れを絶やさず、天神という空間のコンテクストに見事に調和させている。決して目立つ建物ではないが、むしろ何処かに無地の余韻が残されており、デザインしない勇気と決断を示していることが、逆に力量を感じさせる。本来の景観の価値はこうであったか、という大切な原点を教えてくれるようだ。