薄紅のつぼみが膨らむ桜の木を舞台に、心温まるドラマが繰り広げられた。昭和59年春。福岡市南区桧原の桜並木が道路拡張のために伐採されることになった。それを知った市民が当時の故進藤一馬福岡市長あてに、命ごいの色紙を桜樹につるした。すると市長が「桜花惜しむ 大和心のうるわしや とわに匂わん花の心は」の返歌を届けた。市民の願いが通じ、桧原桜は伐採が免れただけでなく、永久の開花が約束されたのだった。短歌で桜の存命を嘆願した人、伐採をやめた工事現場の人、返歌した市長、地域の花守の方々…。大和心を伝える様々なドラマが、今でも脈々と息づいている。桧原桜は、景観が単に視覚に訴えるだけではなく、見た人の精神や行為にまでも強く影響を与えることを物語っている。