「西の堤池」は、数ある農業用ため池を呑み込んで拡大する城南区の市街地の中で、かつての原風景の枠組みの中に踏みとどまる要の存在である。南に油山を望む立地や、周囲の道路との穏やかな高低差という、このため池本来の特性を活かしたデザインによって、ともすれば箱庭的になりがちな水辺の空間を、のびのびとした、飾らないが心休まる水面としてみせることに成功した。雑多な周囲の建築群や生活のたたずまいを全てを映し込んでなお、人間に近いところに存在する自然としての包容力を十分に感じさせるランドスケープデザインである。
環境共生という科学的な社会の流れを横目で睨みつつも、人の心休まる拠り所という、風景の作法を忘れていない。華やかな都心のにぎわいが注目されがちな福岡にあって、周辺や境のたたずまいを都市生活の豊かさにどう結びつけるか。その景観デザインによる解答の一つを、私たちはここに見ることが出来よう。