にぎやかな西新商店街を藤崎へ歩くと、店舗を下駄ばきにした中高層マンションが両側に迫りはじめる。そうしたビルの谷間に、敷地間口12間(けん)ほどの端正な町家がまさに時を超え建ち続けている。明治14年に米穀店として建てられたこの町家は、重厚な土蔵造り二階建ての主屋(間口6間)と副屋(間口4間)を平屋でつなぐ構成で、二階の出格子と車庫部分を除けば、非常によく当初の姿を留めている。内部を含めこの地の町家の原型を示す文化財としての価値も高いと言えよう。何より素晴らしいのは、あるじがその町家を実に美しく住みこなしていることであり、よく手入れされた瓦、掃除の行き届いた細やかな格子や洗い出しの腰壁、犬走りなど、明治初めの薫りがここには漂っている。