那珂川の土手沿いに江戸時代から続く酒造場がある。濾過、火入れ、瓶詰めなど出荷前の仕上げ作業が行われている。もともと天神の目抜き通りにあって賑わう商店街の一角に建っていたが、昭和通りの拡幅を機に移築したという。当時、塩原はあたり一面の田園風景であった。いつの間にか高層マンション群に囲まれ、まちなみの変化のなかに埋没した感がある。しかし開け放たれた玄関土間に一歩踏み込むと、高々と梁が組まれた懐かしい和の空間が現れる。やや風化した外壁には、歴史の重みも塗り込められているようだ。変化が激しい時代にあって変わらないことから生まれる価値もある。風景の記憶を喚起させることも都市景観賞のひとつの役割であろう。